ハラスメント全般

2026年10月、カスハラ対策が事業主の「義務」に——パワハラ対応で足元を固めた企業が次に取り組むべきこと

「うちはパワハラ対策ならもうやっている」——そう考えている企業ほど、見落としがちな法改正が迫っています。2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置が2026年10月1日から事業主の法的義務になります。施行まで、残り3ヶ月足らずです。

今回は、この法改正の中身と、すでに取り組んでいるパワハラ対策との共通点、そして企業がいま準備すべきことを整理します。

カスハラの定義は、パワハラの「3要素」と同じ構造をしている

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が定めるパワハラの3要素は、次の通りです。

  • ①優越的な関係を背景とした言動であること
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  • ③労働者の就業環境が害されるものであること

今回の改正で新たに法律上定義されたカスタマーハラスメントも、驚くほどよく似た3段構えです。

  • ①顧客等の言動であって
  • ②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
  • ③労働者の就業環境が害されるもの

行為者が「社内の優越的な関係にある人」か「顧客等」かが違うだけで、行き過ぎた言動によって働く人の就業環境が壊されるという骨格は同じです。パワハラの3要素を社内研修で扱ってきた企業にとって、カスハラの考え方は決して新しいものではないはずです。

カスハラ相談は8.4ポイント増加——増えているのは「経験」より「相談」

厚生労働省の実態調査によると、過去3年間に労働者から顧客等による著しい迷惑行為(カスハラ)の相談があったと回答した企業の割合は、19.5%から27.9%へと8.4ポイント増加しました。企業が受け取る相談件数は増えている一方で、労働者本人の被害経験は必ずしも同じ勢いでは増えていません。この「相談は増えているのに、経験は必ずしも増えていない」というねじれは、パワハラ・セクハラでも見られる傾向で、弊社の過去記事「職場のハラスメントの変化を読み取る(2020年から2023年の変化)」でも詳しく取り上げています。相談窓口の整備が進み、これまで表面化していなかった被害が顕在化してきた結果だと考えられます。

つまり今回の法改正は、「新しい問題が急に増えた」からというより、「これまで対応の仕組みがなかった問題に、ようやく制度が追いついた」という意味合いが強いといえます。

事業主が講じるべき5つの措置

厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、次の5つが示されています。

  • 方針の明確化と周知——「顧客等からの著しい迷惑行為には毅然と対応する」という会社の方針を明文化し、従業員に周知する
  • 相談体制の整備——専用の窓口を新設するか、既存のハラスメント相談窓口を拡張して対応する
  • 事後の迅速かつ適切な対応——事実関係の確認、被害を受けた従業員への配慮、再発防止策の実施
  • 抑止のための事前準備——対応打ち切りの基準、警察への通報体制、必要に応じた出入り禁止や法的措置の準備
  • プライバシー保護と不利益取扱いの禁止——相談した従業員のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしない

この5本柱は、実はパワハラ防止法が事業主に求めてきた措置とほぼ同じ骨組みです。すでにパワハラ・セクハラの相談体制を整備している企業であれば、その窓口や手順をカスハラにも拡張することで、ゼロから作り直す必要はありません。

カスハラ対策だけでは終わらない——社内の「境界線」の課題は残る

カスハラ対策は、あくまで「社外」からの行き過ぎた言動への備えです。一方で、管理職が部下に対して行う指導とパワハラの境界線という「社内」の課題は、この法改正とは別に、変わらず存在し続けます。むしろ、カスハラ対策を機に相談窓口への意識が高まることで、社内のハラスメントについても、これまで以上に相談や指摘が増える可能性があります。

管理職自身が、自分の指導はパワハラの3要素に照らしてどこまで適正なのか、グレーゾーンをどう認識しているのかを把握しておくことは、カスハラ対応の体制を整えるのと同じくらい重要です。弊社のパワハラリスク診断では、管理職ご自身のパワハラへのリスク認識やグレーゾーンの理解度を無料で診断できます。カスハラ対策の見直しに合わせて、社内の指導のあり方も一度点検してみてはいかがでしょうか。

出典

この記事は以下の資料を参照して作成しました。